相続に関する手続きは、多くの人々にとって複雑でストレスの多いプロセスです。
しかし、行政書士はその専門知識を活かして、相続手続きをスムーズかつ効率的に進めるお手伝いができます。この記事では、行政書士が提供する相続関連の主要なサービスに焦点を当て、その重要性を説明します。
〈行政書士ができる相続手続き10選〉
①遺言書の原案作成
遺言書の原案作成において、行政書士は専門的なアドバイスとサポートを提供できます。遺言書は、自分が亡くなった後にどのような遺産分割を希望するか明示する重要な文書です。不備があると、本人の意志とは異なる結果になる可能性があるため、トラブルを未然に防ぐためにも専門家のアドバイスを受けることをオススメします。
遺言書の種類には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。自筆証書遺言と秘密証書遺言は本人が書き、公正証書遺言は公証人が作成します。したがって、行政書士は遺言書を直接作成することはできませんが、遺言書の書き方や文案作成についてアドバイスし、公正証書遺言や秘密証書遺言の際には証人役を務めることが可能です。
遺言書は相続争いを予防する有力な手段であり、財産の分割方法を明確に指定することで、相続人間の紛争を最小限に抑えます。
財産規模が小さいと思われる場合でも、遺言書は非常に重要です。
家庭裁判所のデータによれば、1,000万円以下の相続事件が相続争いの対象となっているケースが多いことからも、遺言書の価値が浮き彫りにされます。
遺言書を通じて、遺産の分割に関する意思を明確にし、相続争いから家族を守る一助となるでしょう。
②遺言書の執行者や証人になる
遺言書の存在が確認された場合、その遺言内容を実行するためには執行者が必要です。執行者は、遺言書において指名された個人、または第三者によって指名された人、さらには家庭裁判所によって選ばれた人で構成されます。
このため、遺言の執行者として行政書士も特定の状況下では任命されることがあります。
遺言内容の執行は、主に以下の事項に関する手続きを指します。
相続分の指定
遺産の分割方法の指定
相続人の除外
遺言の執行者は、一定の要件を満たす限り、誰でもなることが出来ます。ただし、遺言の執行手続きが複雑で難しい場合、行政書士等の専門家に支援を依頼することが一般的です。
ただし、遺言書の「検認」という手続き(これは相続人に遺言の存在と内容を通知し、遺言書の偽造や変造を防ぐための手続きです)については、基本的に家庭裁判所を介して行われるため、行政書士が関与することはできません。
③遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書は、相続人が遺産の分割に関する合意を文書化する重要な書類です。この協議書を作成する役割は、行政書士も担うことができます。
遺産分割協議書が存在することで、将来の相続人間のトラブルを未然に防ぐことができます。さらに、この協議書は財産の名義変更や預貯金の払い戻しといった手続きにも使用できます。
協議書の書式には厳格な規定はなく、相続人自身が手書きまたはコンピュータを用いて作成することができます。ただし、各相続人が実印で捺印し、印鑑証明書を添付する等、一定の要件を満たす必要があるため、行政書士等の専門家が作成を代行することが多いです。
④相続人の調査(相続人の特定)
相続手続きにおいて、最初に確認しなければならないのは、正確な相続人の特定です。この相続人の調査に関して、行政書士は専門知識を活かしてサポートできます。
相続人の調査は、亡くなった方の死亡時の戸籍資料を取得し、出生から死亡までの経歴を徹底的に調査するプロセスです。この調査は、配偶者以外の相続人を特定し、相続手続きを進めるために欠かせません。時には、前妻との間に子どもがいたり、養子縁組が行われたりしていて、家族内で知られていない相続人が発見されることもあります。
また、昔の戸籍謄本は手書きで書かれているため、読み解くことが非常に難しいです。さらに、出生時から死亡時までの戸籍謄本を収集する際、あちこちの役所に行かなければならないため、負担が大きい作業のひとつです。
そのため、相続手続きを正確かつスムーズに進めるために、行政書士などの専門家に依頼することが多いです。
⑤相続関係図の作成
相続人の調査が完了した後、その結果を元に整理して相続関係図を作成します。この相続関係図の作成についても、行政書士が代行することが出来ます。
相続関係が複雑に入り組んでいる場合、連絡漏れなどのトラブルが発生する可能性もあるため、相続関係図はスムーズな手続きのために非常に重要です。
さらに、行政書士は「法定相続情報一覧図」の作成も行うことができます。
法定相続情報一覧図は、法務局で公認された相続人の詳細情報をまとめた図表です。
行政書士が相続関係図や法定相続情報一覧図を作成することで、手続きをスムーズに進めることが出来ます。
⑥相続財産の調査および遺産目録の作成
相続手続きにおいて、相続人の調査が完了した後には、財産の調査も不可欠です。
相続における財産は多岐にわたり、預貯金、不動産、自動車、有価証券、債務、生命保険金、死亡保険金などが含まれます。この多様性から、相続人が気付いていなかった財産が後から発見されることがあります。したがって、財産調査は、相続税申告の適切な対応や追徴課税の回避、または大きな借金の未発見を防ぐために必要です。そのため、相続専門の税理士や行政書士に依頼することが一般的です。
さらに、行政書士は遺産目録の作成も行うことができます。
遺産目録は、預貯金、有価証券、不動産、自動車などの財産の内容を調査し、整理した一覧表です。この遺産目録があれば、相続財産の分割協議や相続手続きをスムーズに進めるのに役立ちます。行政書士がわかりやすく整理された遺産目録を作成することで、相続人同士の協議が円滑に進行し、手続き全体がスムーズに進むことでしょう。
⑦戸籍謄本等の公的書類取得の代行
相続人の調査に必須の作業が戸籍の取得です。
被相続人が結婚や戸籍の改製などにより、戸籍情報が変更されている場合もあります。このため、戸籍の取得作業は容易ではなく、手間がかかることがあります。
出生から死亡までの情報は戸籍謄本のどこに記載されているのか、本籍地が分からない場合はどうすればいいのか。行政書士はこうした疑問を解決することができます。
⑧銀行口座の相続手続き
被相続人の口座は、金融機関が死亡を確認すると、通常凍結されます。この際、口座の解約手続きが必要となりますが、行政書士はこの手続きを代行できる専門家です。
銀行預金の相続手続きには、「戸籍謄本」と「各相続人の印鑑証明」が必要です。手続き自体は複雑ではありませんが、窓口が開いている時間が平日の昼間のみという金融機関もあります。
こうした状況で手続きが難しい場合、行政書士に依頼することが選択肢となります。
なお、2019年7月以降の民法改正により、最大150万円または被相続人の預貯金額×3分の1×法定相続分までの預金引き出しが可能になりました。ただし、引き出した額は相続財産から差し引かれます。
⑨株式の名義変更手続き
行政書士は、株式の名義変更手続きに関するサポートも提供できます。株式の名義変更手続きは、相続する株式が上場株式と非上場株式で異なる要件を持っています。
上場株式を相続する場合、証券会社への連絡というステップが必要です。これには被相続人の株式を相続人の口座に移す手続きが含まれます。相続人がまだ証券口座を持っていない場合、最初に口座を開設する必要があります。
一方、非上場株式の場合、証券会社を介さずに、株主名簿の書き換えを直接発行元の会社に依頼します。
特に、2009年1月5日以降に保有された上場株式は電子化され、証券保管振替機構や証券会社の口座でペーパーレス管理されています。しかし、電子化期限までに手続きが行われていない株券については、株券発行会社が信託銀行などに特別口座として管理しているため、手続きが煩雑になることがあります。
このような複雑な手続きには、行政書士のサポートが役立ちます。行政書士は手続きを代行し、スムーズに株式の名義変更を実現します。
⑩自動車の名義変更手続き
自動車が相続財産に含まれる場合、相続人は自動車の名義変更手続きを行う必要があります。この名義変更手続きについても、行政書士に依頼することができます。
相続した自動車を手放す場合や新たな相続人が乗る場合、名義変更は必須です。手続きには戸籍謄本、車検証、車庫証明書、各相続人の印鑑証明などの準備が必要です。これらの書類を整えて運輸支局に提出することで、名義変更手続きを完了することができます。
ただし、運輸支局での手続きは平日の昼間に行う必要があり、時間が取れない場合や手続きの煩雑さを避けたい場合、行政書士に依頼することを検討する価値があります。
行政書士は名義変更手続きを代行し、スムーズかつ正確に処理してくれます。
〈弁護士にしかできない業務〉
①遺産分割調停
遺産分割調停は、相続人間で遺産の分割について合意できない場合に、家庭裁判所に申し立てて行う調停・審判の手続きを指します。このプロセスは、弁護士にしかできない業務になります。
②争いがある場合の遺産分割協議
遺産の分割協議が行われる際、何事もなく終えられるのが一番ですが、場合によっては相続人同士で揉める可能性があります。そういった際、行政書士が代理人として交渉や仲裁を請け負ったりすることはできません。 争いのある遺産分割協議に関与できるのは弁護士のみです。行政書士を含め、司法書士なども携わることはできず、関与すると弁護士法違反になります。
③相続放棄の申述(司法書士も可)
相続放棄の手続きは、司法書士や弁護士に限られ、行政書士は関与できません。相続放棄は、相続財産に債務などの負担がある場合、相続権を放棄する手続きを指します。
この手続きは、家庭裁判所に必要書類を提出し、受理されることで正式に完了します。また、相続放棄に関する相談や申述書の作成なども、行政書士が担当することはできないため、ご留意ください。
〈税理士にしかできない業務〉
①相続税の申告
相続税の申告は、相続財産が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超える場合に必要です。行政書士は相続税の申告業務に携わることはできないため、相続税が発生する場合、相続人は自身で申告するか、別途税理士に依頼する必要があります。
ただし、行政書士の中には税理士などの士業と連携し、相談を受けてサポートすることも行っている専門家も存在します。相続税は相続財産の分割方法によって金額が変わるため、相続人同士が協力して遺産分割を検討する場合、税理士との協力が有効です。相続に関するトータルなサポートを受けることで、相続税の最適な対策を打つことができます。なお、相続税の申告が不要な場合は、その手続きの必要はありません。
②準確定申告
準確定申告が必要になるのは、生前に収入を得ていた方が亡くなった場合です。申告の必要性はいくつかのケースで生じます。
まず、亡くなった方が自営業者やフリーランスなどで事業収入があった場合、準確定申告が必要です。この場合、売上金から経費を差し引いた所得が48万円以上の場合に限ります。
さらに、不動産所得や株式取引などで、48万円以上の所得がある方も申告の対象となります。特に、懸賞金や賞金などの一時所得も忘れずに申告しなければなりません。この場合、収入を得るために支出した金額と特別控除額を足した金額よりも多い収入がある場合に申告が必要です。
その他、申告が必要かどうかを判断するためには、亡くなった方の収入源や受けていた控除などの情報を整理しておくことが重要です。
以下は、準確定申告が必要となる可能性のある人々の例です
自営業者であった場合
アルバイトや正社員として2ヵ所以上から給与を得ていた場合
年収が2,000万円以上ある場合
年金受給額が400万円以上ある場合
これらの条件を満たす場合、準確定申告が必要となります。確定申告の際には、適切な書類と情報を用意し、税理士のアドバイスを受けることが大切です。
〈司法書士にしかできない業務〉
①会社の名義変更手続き
被相続人が個人事業主であり、相続後にその事業を継続する場合、会社の名義変更手続きが必要です。この手続きは、通常司法書士が担当します。
②不動産の名義変更手続き
不動産の相続登記について、戸籍関連書類の入手や登記申請書の作成・提出などの手続きは、法務局を通じて行われ、通常司法書士が関与します。
一般的に、不動産の相続登記は専門家を介さずに行うことも可能ですが、相続人が多かったり、不動産の権利関係が複雑だったりする場合、手続きはより煩雑になることがあります。
〈最後に〉
相続手続きは複雑であり、間違いが許されません。行政書士はその専門知識を駆使して、スムーズで円滑な相続手続きをサポートする専門家です。
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